旅の醍醐味ってなんだろう――そんなことをぼんやり考えながら、私は志苔館の入口に立っていました。
曇り空の下、潮の香りが風に乗ってやってきて、草を揺らす音が足元でささやきます。
今回の旅の目的地は、函館市東部にひっそりと佇む**志苔館(しのりたて)跡**。
「続日本100名城」にも選ばれた中世の道南十二館のひとつでありながら、観光地としては静かで、むしろ“語られすぎていない”ところにこそ魅力がある。
そんな期待を胸に、私はこの場所を訪れました。
Contents
道南の歴史が眠る丘で、時間が巻き戻る
まず目に飛び込んできたのは、真新しい石碑。
「史跡 志苔館跡」と刻まれた立派な石柱が、丘の入口にどっしりと立っていました。
この場所は、**15世紀中頃、和人が蝦夷地(えぞち)に築いた防衛拠点のひとつ**。
説明板によれば、当時この地には南部の武士たちが津軽から渡ってきて築城したとされ、やがて蝦夷(アイヌ)との衝突が絶えず起きることに。
そのため、志苔館はまさに“前線の砦”のような役割を果たしていたのだとか。
実際に現地に立ってみると、丘の上から見渡せる津軽海峡の景色が圧巻で、「この眺めがあるなら敵の動きもよく見えただろうな」と納得できる立地なんですよね。
草で覆われた曲輪(くるわ)の跡や、復元された堀のラインも明確で、全体的にとても整備されています。
歩きやすい遊歩道と、どこか懐かしい風景
志苔館跡は、小高い丘の上にあるのですが、ちゃんと舗装された道と木の階段が用意されていて歩きやすいです。
入口から館跡の中心部までは徒歩で5〜10分程度。
道沿いには野の花が咲き、周囲の静けさと相まって、ちょっとした森林浴気分にもなれます。
途中、木造の東屋や、観光案内スタンプが置かれている小さな小屋もあって、思わず足を止めてしまいました。
「続日本100名城スタンプラリー」にも参加している場所なので、スタンプ帳を持っている人はぜひここでポン!と押してみてくださいね。
旅の証が、ひとつ増えます。
志苔館の見どころは“想像する余白”
正直に言うと、志苔館には天守閣も、石垣も、城門もありません。
だけどそれがいい。
むしろ“何もない”からこそ、ここでは歴史を自分の中で再構築する楽しさがあります。
「ここに武士たちが立っていたんだな」
「この堀の向こうから敵が来たのかも」
「夜は、焚火を囲んでどんな話をしていたんだろう」
そんな風に、見えない歴史に耳を澄ませたくなるんですよね。
説明板には、和人とアイヌの激しい戦いの歴史、そして亡くなった者の慰霊の話まで書かれていて、ふと足が止まります。
この丘の静けさは、そういった“過去”への祈りでもあるのかもしれません。
展望台から望む、津軽海峡と函館の町並み
丘を登りきった先にある展望スペースでは、青い海が広がり、その向こうに函館の町や、遠くには青森の影まで見渡せる日もあります。
私が訪れた日は、厚い雲の隙間からわずかに陽光が差し込み、草の緑と空のグレーが織りなすコントラストがとても印象的でした。
海を見下ろしながらしばらくベンチで休んでいると、風の音、波の遠鳴り、鳥のさえずり――まるで音だけのタイムスリップ。
こういう“静けさの贅沢”を味わえるのも、志苔館の大きな魅力なんですよね。
志苔館へのアクセスと周辺情報
志苔館跡は、函館市内中心部から車で約20分ほど。
公共交通機関を使う場合は、JR函館駅からバスやタクシーを利用するのが現実的です。
駐車場は無料のスペースがあり、混雑することはほとんどないので安心して訪れることができます。
トイレも整備されていて、ベンチや屋根付きの休憩所もあるので、ちょっとしたピクニック気分でも立ち寄れる場所です。
ファミリーでも、歴史好きのひとり旅でもおすすめですよ。
志苔館のガイドまとめ
「志苔館 観光」というキーワードでここまで読んでくださった方には、ぜひ実際にこの丘を歩いてみてほしいと思います。
大きな観光施設があるわけではありません。
にぎやかな売店も、派手なアトラクションもない。
だけど、歴史がちゃんと息づいていて、それを感じられる“余白”がある。
志苔館は、そんな場所なんです。
あまり知られていないけれど、歴史好きにはたまらない、そして誰にとっても心が静まる――
函館に来たら、ぜひこの「丘の上の物語」に耳を澄ませてみてくださいね。